中・大規模木造建築物の魅力 ② “十和田ホテル”

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“幻の東京オリンピック”を前に、日本を訪れる外国人観光客のための宿として、政府の要請で建てられたホテルのひとつがこの『十和田ホテル』である。
昭和14年にオープンしたこのホテルは日本三大美林の美しい木目と強い材質が特徴の「天然秋田杉」の巨木を巧みに配した木造三階建てである。
L字形平面計画を、石積基壇上に一見、北欧の山荘を思わせる、log ログ(= 樹木の幹や枝をシンプルに切り出したもの)構造のように見えるが、外装に半割の秋田杉丸太を張りつめてある、軸組工法の建物である。
これは設計者の日本大学工学部土木建築科教授 長倉謙介氏が設計を前にヨーロッパ視察を行い、参考にしたためではないDSC_1999_00029DSC_2024_00052かと言われている。
内装は、外観からは「日本にもこのような西洋風なホテルがあるのか」と外国からの訪問客を驚かせ、一歩中に入ると、格天井や組子など、様々な工夫を凝らした日本建築の 「木」の趣で“もてなす”演出だったのだろうか。施工には、秋田・青森・岩手の三県から宮大工八十名を集めて技術を競わせたと伝えられていることからも、その意気込みが感じさせられる。

八戸駅からバスで2時間、奥入瀬渓谷に沿うように走り、十和田湖の子ノ口(ねのくち)にようやくでる。「あと15分くらいです。」と対岸に遠く見える赤い屋根の建物を指さしながら運転手が言う。
十和田湖の西湖畔、ぶなや白樺の林に囲まれて外輪山の高台に建つ十和田ホテルは、雪深く、極寒の地で、約80年の歳月を過ごしたとは想像できないほど美しい。すべての客室から十和田湖を眺めることができ、初秋の艶やかさのない緑の間から見える十和田湖は自分だけのものになったように感じる。
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驚いたことに、秋田県営のホテルだという。従業員の“おもてなし”が、建物同様に旅人をくつろがせ、豊かな時間を過ごすことができた。その上、国の登録有形文化財に指定された建物に泊まれ、十和田八幡平国立公園の十和田湖を独り占めでき、信じられないくらいのリーズナブルな料金で過ごせるのは、感謝の一言だ。
「各部屋の床の間、天井、格子戸などの意匠も一つ一つ異なり、それぞれが違った趣と表情がある」ということだから、別の部屋にも泊まってみたい。

 <十和田ホテル>

 

2015年09月23日 | Posted in 建物探訪記