『小住宅』を訪ねて ③ “CAP MARTIN (カップ・マルタン)休暇小屋” 《ものつくり大学》

Cassina(カッシーナ)に座り、窓扉の鏡に映る水辺が地中海かと錯覚する。「こんな時間をル・コルビュジエ夫妻は過ごしたんだろうな」。DSC_1887_00087

1951年からル・コルビュジエが晩年を過ごしたカップ・マルタンの「Le Cabanon (ル・キャバノン:休暇小屋)」は、妻・イヴォンヌのために南フランスに建てた3・66メートル四方の小さな小屋だ。それを建物はおろかドアノブや蝶番に至るまで忠実に再現したレプリカが、埼玉県行田市の《ものつくり大学》にある。

コルビジェ住宅名声も、多分富も手に入れた彼が選んだ“終の棲家”。「建築とは何か?」を問い続けた彼の出した答えが、「最小限住宅」だったのだろうか。いや、住 宅というより“小屋”だ。彼が手がけた数々の住宅や別荘と比べて「もっとすごいものができたはずなのに」と考えてしまうのは、やはり凡人の浅はかさか。
しかし、中に入ってみるとなんとも落ち着く空間なのだ。
作り付けの机と妻への誕生日プレゼントと してデザインしたスツール Cassina(カッシーナ)、鏡付きの窓扉に映る角度毎の景色など、すべてが計算しつくされたモデュロール※の世界は、時間の流れもゆったりさせ、風さえも地中海の乾いた海風に感じさせる。
カップマルタン内部Cassina(カッシーナ)に座り、そっと机に肘をおいてみる。見上げてみると、天井に“休暇小屋”から見える地中海をイメージしたのだろうか、空の青 さと地中海の色、太陽の赤さ、波と雲の白さにはさまれた“休暇小屋”を天袋に見立てた1枚の絵のように見えるのはぼくだけだろうか。
一見、「ただの木箱?」と勘違いしてしまうほどのシンプルなデザインのCassina(カッシーナ)は、これもモデュロールを用いた寸法で構成されていて、なんとも落ち着き、安心感を与え、使い手に創造力をかきたてさせるスツールだ。
こんな風に細部に至るまで計算尽くされた「最小限住宅」であることを知ると、規模とか形式で比較してしまう自分を恥じる。これも彼が全精力を注いで作り上げた作品なんだと。
1965年の夏、この小屋から海へと向かったル・コルビュジエは、そのまま帰ることはなかった。
生前の彼の言葉「もっとも大きな喜びはモノをつくる喜びだ」。

DSC_1897_00097※モデュロール(Modulor)
ル・コルビュジエが、人体の寸法と黄金比から作った建造物の基準寸法の数列。フランス語のmodule(モジュール・寸法)とSection d’or(黄金分割)から作ったル・コルビュジエによる造語。

ものつくり大学、藤原先生、八代先生、ゼミの学生諸君、このプロジェクトに携わった全ての皆様に敬意を表します。「すばらしいものをありがとうございました」

 
 <ものつくり大学>
 

2015年09月17日 | Posted in 建物探訪記