『小住宅』を訪ねて ② “中銀(なかぎん)カプセルタワービル”の1ユニット

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丹下健三、黒川紀章、菊竹清訓などの建築家が1970年前後に打ち出した“メタボリズムの思想”が具現化された建築が残っている。
メタボリズム(新陳代謝)は、古い細胞が新しい細胞に入れ替わるように、古くなったり機能が合わなくなったりした部屋などのユニットをまるごと新しいユニットと取り替えることで、社会の成長や変化に対応しこれを促進するといった設計思想だ。高度成長時代の遺物ともいえるこれらの建築物は、当時、SF的な近未来を想像させ、ロマンを感じさせるものだった。その中の1つが1972年に建設された「中銀(なかぎん)カプセルタワービル」だ。故・黒川紀章氏が設計し、2本のシャフトに140戸の「カプセル型の住戸」が取り付けられ、25年ごとにカプセルを新しいものに取り替えるといった、メタボリズムならではの計画だった。
ビジネスマンのセカンドハウス・オフィスとして位置付けられたユニット内には、ベッド、エアコン、冷蔵庫、テレビ、収納などが作りつけで完備され、さながら“大きな丸窓があるコンテナハウス”のようだ。「勤務地が変われば、そのまま取り外し、トレーラーで運び、そして別のシャフトに設置する」といった利用を想定したのではないか、とも考えられる可変性のある建築物だ。
皮肉なことに、その近未来的建物がカプセルの取り換え時期は過ぎても、アスベストなどの問題で、建て替えか大規模修繕かの方針も決まらないまま、現在に至るまで放置されている。
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2011年森美術館で開催された『メタボリズムの未来都市展:戦後日本・今甦る復興の夢とビジョン』で「中銀(なかぎん)カプセルタワービル」の“1ユニット”が展示され、その展示物は埼玉県立近代美術館に寄贈され、埼玉県立近代美術館のある、埼玉県立北浦和公園に常設展示されている。

DSC_1836_000391972(昭和47)年竣工
外板:ボンデ鋼板
内壁:ラワンベニヤ下地ビニールクロス貼
268.1×418.1×278.0cm

 

 

このカプセルには、《増殖する生命》のイメージがあるが、増殖もせず、取り換えもできず、基準値の10倍ものアスベストを抱えたまま、2007(平成19)年黒川記章は亡くなった。しかし、現在でも国内外から、保存再生を求める声が上がっている。一つの建築の可能性という意味で、非常に大きなチャレンジをした建物といっていいのではないだろうか。

 
 <中銀カプセルタワー>
 

2015年09月14日 | Posted in 建物探訪記