「基準をクリアした」 それでいいのか? vol.1

ストーブ子供の頃、冬の朝、目が覚めると「雪が降ったかどうか」分かった。妙に冷たい空気と静寂があったからだ。
すると、遠くからジャラジャラとチェーンを履いたバスの音が聞こえてくる。「あっ、やっぱり雪だ」。
建付けの悪いガラス窓で外気と仕切られた部屋の暖房器具は炬燵と反射板付き石油ストーブだったのだから、しょっちゅう、「誰々が脳溢血で倒れた」と親たちが喋っていた。その場所は決まって便所か風呂だった。

「行ってらっしゃい。気を付けて」から「お帰りなさい。気を付けて」に
交通戦争と言われ、交通事故死者数のピークだった昭和45年(1970年)には、1万6765人もの命が失われた。その頃の母親の子供を送り出す言葉が「行ってらっしゃい、車に気を家庭の浴槽での溺死者数の推移不慮の事故付けて」だった。
厚生労働省が発表した「人口動態統計」(2016年)によると、1年間に家庭内で発生した不慮の事故死は1万4175人で、この数字は交通事故死の5278人の2.7倍近くとなってる。この“不慮の事故”で最も多かったのは「溺死及び溺水」で5491人。次いで、「窒息」の3817人、「転倒・転落」の2748人、「煙・火災」の787人となっている。
つまり、安全であるはずの家の中の方が、道路より危険なのである。
だから、「お帰りなさい。気を付けて」である。
また、「家庭の浴槽で溺死者数」が
04年は2870人だったが、12年は5097人に上り、15年は4804人で04年の約1.7倍増となっている。消費者庁は「高齢者の血圧1人口増に伴い、入浴中の事故死も増えている」と分析しているが、果たして、それだけが原因であろうか。
さらに驚きなのは、東京消防庁と東京都監察医務院による
実態調査(1999年)によると、この数字はあくまで「事故死」として報告されたもののカウントであり、「病死(心疾患など)」を含めると「1999年の全国の“入浴中の急死”数は、“浴槽内での溺死”(2,972人)の4.8倍に相当する1万4千人にもなる」(国立保健医療科学院統括研究官鈴木晃氏)と推定されている。この比率を2016年に当てはめると、2万6千人もの方々が入浴中に急死していると考えられる。

「ヒートショック」が原因
“浴槽内での溺死”は、65歳以上の高齢者が9割以上を占めていますが、その多くは、冬場の浴槽内で発生しており、住まいの断熱性能と大きな関係がある。血圧2
冬場、暖房をしている居間から、冷たい廊下に出て脱衣室に移動し、服を脱ぎ、冷え切った体で熱いお湯につかるという行動をしたとき、急激な温度変化が原因で血圧が大きく上下し、心筋梗塞や脳梗塞を起こしてしまうのです。これが「ヒートショック」だ。
ヒートショックを予防するために、
①入浴する時にはあらかじめ暖房器具で脱衣室や浴室を温めておく
②熱いお湯に長時間つからないようにする
入浴方法を見直すことが大切だ。また、家全体の断熱性能を上げるリフォームなどを検討しても良いでしょう。

新築住宅「省エネ性能等級4」最高等級だから大丈夫?
省エネ性能は家の壁や窓、屋根などの“断熱性能”によって決まる。ペラペラな断熱材では、熱がどんどん外に逃げていき、たくさんのエネルギーが必要となり、「省エネ性能が悪い家」ということになる。
2020年からやっと、外皮計算(住宅の壁や窓、屋根などの“断熱性能”)が義務化になるので、これまでの任意から多少の進歩といえる。
しかし、この基準が全く“お寒い”基準なのである。
野村総合研究所(NRIのレポートによると、住宅の外皮の断熱性能の国際比較の結果は、日本の住宅の断熱基準は諸外国と比較して低いことがわかる。熱貫流率国際比較
縦軸は熱の伝えやすさを表す指標である熱貫流率(W/㎡・Kで、数値が小さいほど断熱性能に優れていることを表し、横軸は地域の気候区分を指す暖房デグリーデー(度日)で、数値が大きいほど寒冷な気候であることを表すグラフであるが、特に、東京(6地域)以西の温暖地域では諸外国との差が顕著であり、東京の熱貫流率の基準値は同程度の気候区分に属するカリフォルニア州の倍以上であるの低品質レベルといえる。事実、6地域のの外皮計算をすると、いとも簡単に最高等級が取れてしまう。
「最高等級だから・・・」と喜んでいても、世界のレベルからすれば、お寒い住宅環境の中で、ヒートショックの恐怖にじっと我慢しているのが現実といえる。

“基準”は最低基準であって、理想基準や要求基準ではない。
我々、住宅の作り手側に考え方の変革が必要なのではないだろうか。

2018年01月19日 | Posted in 木造・木質建築